
伝田さんの演奏は、アグレッシブというのとはちょっと違うかもしれませんが、常に前向き。 技巧的なパッセージにおける安定感は言うに及ばず、ヴァイオリンの音色、響きを少しも損なうことなく、真正面から熱く音楽を伝え、客席から何度も嘆息を誘っていました。
特に前半の最後を飾ったヴィエニャフスキーの華麗なるポロネーズをロマンティックに熱く歌い、そして締めとしたモンティのチャールダーシュは技巧の粋を尽くし、プログラムにも書いてあったとおりの全身全霊で演じ切った迫力、客席を圧倒。
そしてまたメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲、大きなホールの生オーケストラで聴くと少々欲求不満を感じることの多い曲ですが、見晴らしの良いピアノ伴奏を従え、艶やかな光沢を堂々と鳴らした演奏に、この曲の新たな魅力を感じました。
個人的には第2楽章ではもっと退いて、ふっとこぼれ落ちるような溜息、そんな枯れた味わいも期待したのですが、艶やかに歌い綴っていったのは若い情熱の迸りと感じました。 人生の折り返し地点を通り越した当方とは違い、枯れた演奏を期待するのは早計と反省したしだいです。
なお使用したヴァイオリンは、1580年にガスパール・ディ・ベルトロッティ(愛称:ガスパロ・ダ・サロ ←これにピンとこられた方はバッタもんCDコレクター)によって製作されたものとのこと。 素人の耳にも分かる琥珀にも似た落ち着いた音色、そして奥行きを感じさせる響きを目の当りに聴いて酔いしれました。
とにかく伝田さんのヴァイオリンから迸り出た熱い想い、そして大いなる歌、素晴らしい才能に触れた一夜でした。
「ひびき音楽事務所」さん、ありがとうございました。