2004年9月30日、第5回 現代日本オーケストラ名曲の夕べ(日本オーケストラ連盟)の実況録音で、沼尻竜典指揮オール・ジャパン・シンフォニー・オーケストラによる演奏です。
オーケストラによる美しい響きも魅力的ですが、何より太田麻華さんによる朗読がとても素晴らしい音楽ですね。
元来よりこの曲は、武満さんの指定では「12歳から15歳の少女による朗読」となっているそうです。
この演奏は、その意図が見事に反映されているように思います(太田さんの年齢は存じ上げませんが)。
上手く言えませんが、大人になる前の子供の透き通るような声質を残し、そしてまだ大人には成熟しきっていなくてどこか危ういような不安定さを感じさせつつ、朗読が進みます。
その朗読は、谷川俊太郎さんの「はだか」という詩集の中より武満さんが選んでいます。
「むかしむかし」で転生輪廻のような世界を想像させたあと、現実の世界で「おじいちゃん」「おばあちゃん」「おとうさん」「おかあさん」と、いずれも決して綺麗事ではない家族の様子を、美しい音楽と、心に残る言葉で語りかけられるのが胸に響きます。
そして最後の「とおく」と題された詩で結ばれ、そこの一節
そのときひとりでいいからすきなひとがいるといいな
そのひとはもうしんでてもいいから
どうしてもわすれられないおもいでがあるといいな
という言葉には、やはり少女の声の魅力(魔力?)でじ〜んとさせられていまします。
音楽としては、最後のフレーズ
でもわたしはきっとうみよりももっととおくへいける
で結ばれたあと、ここで流れるアコーディオンの響き(大田智美)のなんと美しいこと。
もう涙ぐみそうになってしまうほどの綺麗な音の世界がここにはあり、いろいろなことが最後には浄化されるのでは、そんな気持ちになって曲を聴き終えます。
素敵な現代の音楽です。